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天網恢恢疎而不漏

「外国人材」を巡る二重の不幸(1)

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日本経済新聞30年12月23日版より

「ナゼ日本人ハ正月休ムノニ、私タチ休メナイ。」

 

レ・ミゼラブル』や『蟹工船』で描かれた工場労働者の風景を連想させる台詞だが、これが平成30年の日本だというのだから、驚きを隠せない。

安部政権は早々に改正入管法を成立させ、上限*1をむこう五年間で34万人とする外国人労働者の受入れを決めた。そのほとんどが、旧来から受け入れを進めてきた高度人材・専門人材の類いではなく、日本人が嫌いな「3K」の単純労働者である。

既に日本で働いている外国人留学生や技能研修生にも当てはまることだが、単純労働分野への外国人の受入れは、二重の意味で不幸といえる。ひとつの不幸は、外国人による労働供給の増加によって、既に入国した外国人や日本人の賃金水準が低下し、または上昇の余地が小さくなることだ。もう一つの不幸は、入国した外国人ら自身が、日本国や地域社会、そして企業の「仲間」ではなく、あくまでも「労働力」に付随する人格、つまり自動車の部品としてのハンドルのように扱われ、また、キャリア形成の重要な時期である20代のうちに、高度なスキルを身につける機会を奪われてしまうことだ。

 

外国人労働者が増加すれば自国民の賃金が下がるかどうかについては、ブレグジット周辺の事柄を中心に、議論が絶えない問題ではある。下がらないと主張する受け入れ推進派の論拠のひとつに、外国人労働者も、内国の労働者と同様の消費者の一人であるのだから、受入れは自国民の増加と同様の効果をもたらす、というものがある。

しかし、今日本で進められているのは、あくまでも短期・中期的な労働者の受入れであり、移民政策ではない。短中期的な労働者は日本に定住しないので、定住を前提とした支出をしない。具体的には、住宅や自動車を取得しないことが多いし、教育・文化関係の消費もゼロに近いだろう。そのようにして蓄えた貯蓄は、もっぱら本国への仕送りに充てることが多いという。

だとすれば、もし同額の労賃が、内国の労働者への賃上げや新規雇用として支払われていた場合と比較して、国内で商品やサービスの購入に充てられる金額が小さくなることは否めない。

また、国内労働者同士の関係においても、労働供給の増加が賃金を押し下げることがわかっている。

 

 旺盛な求人需要を賄い、賃金上昇を抑える要因となったのが女性の就業増加だ。「男性正社員の収入減などを背景に女性の就業が進み、人材供給が増えた」(東京大学川口大司教授)。

総務省によればパート・バイトは30年で656万人から1491万人に増えた。約8割が女性だ。 時給の上昇率が再び広がったのは14年ごろから。

景況感が上向き、最低賃金が上昇した影響が大きい。それでも17年の前年比上昇率は2%程度とバブル期より格段に低い。

女性や若者の潜在労働力が減る中で人手不足が深刻化。「多少上げても採れない」と考える企業が増えたためだ。

 

アベノミクスによって女性と高齢者の労働者が100万人も増加し、その半面で、男性労働者の「非正規化」が進んだことは広く知られているが、 その非正規の境遇をさらに苦しいものにしているのが、労働供給の増加、すなわち労働者同士の競争なのである。

日経新聞は、しばしば、非正規の賃金の伸び率が正規のそれよりも高いことを批判的に取り上げるが、むしろ、自然かつ本来的なことといわなければならない。非正規というのは、労働力を柔軟に切り分けて売却している主体であって、しかも、契約期間に期限が定められている。

 

どんな商品でも、大口で買うよりは小口で買った方が単価が高くなるし、毎月決まった量を買うよりも、買い手の都合に合わせて量を変えられる契約の方が割高になる。長期間にわたって更新しない契約よりも、短期で解約される可能性がある契約の方が、売り手は警戒するし、解約された場合のつなぎの資金を蓄えておく必要があるから、やはり単価は高くならざるをえない。

これら全ての根本的な理由は、いずれも、売り手の側の管理費やリスクが上昇するから、その分を商品の価格に反映するという事にすぎないのだが、非正規の方が正規よりも安いという現象は、以上のすべての原則が覆された結果としての、異常現象に他ならない。

そして、このような、異常に不利な取引を吞まざるをえない、無権利状態に近い場所に置かれている労働者が、相応の数存在するということでもある。

 

話が本筋からそれたが、労働供給の増加は、国内のそれであっても相応に、短中期な外国人労働者であればそれ以上に、労働者全体の賃金水準を押し下げる効果を持つはずだ。

そして、そのシワ寄せは、賃金を含む労働条件の変更が容易な非正規労働者の側に集中することになるだろう。高所得者の所得は、減少しても貯蓄や投資に充てられる分が減るだけで、消費水準には大きく影響しないことが多いが、低所得者の所得を減少させると、そもそも所得の大部分を消費に充てているので、所得が減少した分とほとんど同じだけ、消費が減少する。

労働者の生活に配慮するならば、34万人もの新規の労働者を受け入れる余地はないはずだ。ところが、今回の新しい在留資格では、派遣労働者としての就労も認められるという。

 

(次回の記事で、第二の不幸について説明します)

*1:「下限」とほぼ同義であろうが