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天網恢恢疎而不漏

ブラック企業に関する基本的な考え方(2)

# ブラック企業に関する基本的な考え方(2)

 

(前回の記事)


和戦いずれか

ブラック企業の被害を受けたことに気がついたら,ひとまず,この被害を回復するために立ち向かうか,あるいはこれ以上被害を受けないために離職するかの,いずれかを決めなければならない。
この時大事なのは,常に最悪のケースを想定して考える,ということだ。労働法違反が明らかなケースであればあるほど,大部分のブラック企業は,組合から団体交渉を申し込まれるや否や和解を申し出ることがあるし,労基署が入れば,すぐに決着することも多い。
前回,ブラック企業の3本質で確認したように,ブラック企業は,物事を,誠実な話し合いではなく,力関係や金銭で解決するものだと,いわば獣的に考えている。だから,力のある組合や国家権力に勝てるはずがないと見るや,たちどころに金銭を提供するのだ。


しかし,個別の労働紛争が正当に解決した場合でも,ブラック企業が何らかの報復を仕掛けてくることは多い。たとえば,残業代は支払ってきたものの,その直後から上司による執拗なパワーハラスメントが始まり,社内のチャットも監視され,ちょっとでも問題になりそうなことをいうと,降格などの懲戒処分が降ってくる,といった具合だ。
だから,ブラック企業が現状敷いている秩序ーブラック企業の支配者のゆがんだ常識が,日本の法規範に優越する異常な秩序ーに反抗するということは,どんなに小さな事であっても,個別問題に関する紛争に留まらず,長期的な総力戦を招くものであると覚悟しよう。

 

まずは,以下の点をチェックしたい。

 

  1. 生活が持続的であるかどうか
    ブラック企業は,ときに,労働者の生活が困窮して戦意をなくすことを企図して,スラップ訴訟を起こしたり,無理筋でも解雇を仕掛けてくることがある。このとき,預貯金があるかどうか,生計費のうち固定費が多いか少ないか,妻子を預けるなど頼りにできる親戚が居るかどうかは,決定的に重要である。


  2. 自らに瑕疵がないかどうか
    これは業界全体でいわれていることだが,使用者側の弁護士は,労働者側のそれより,証拠が豊富であるから簡単だとされている。
    会社の入退室記録から電子メールまで,使用者は,さまざまな情報を把握している。
    だから,例えば営業に行ったのにパチンコでサボっていたとか,女子社員にセクハラのメールを送信したことがあるといった覚えがある場合は,判例上,時効によって懲戒権が消滅するとされている,最後にそれらの行為をしたときから5年間程度が経過するまでは,会社とたたかうことはできないと考えよう。

  3. 社会的に孤立していないかどうか
    ブラック企業との対決が始まると,会社関係の人間関係は,一時に寸断されることになる。このとき,家族や趣味の仲間との十分親密関係があるかどうかが,非常に重要な意味を持ってくる。人は,衣食住が足りていても,孤独の中では生きていけないからだ。

 

 

これらの点が概ねオーケーであれば,ひとまず,ブラック企業と対決する足場はあるといるというべきである。

 

ゴールを決める

会社に立ち向かうことが可能な状況にあって,その決心がついたら,まずはゴールを決めよう。

ゴールは,原則として「退職和解」であるべき

ここで一言。解雇を争う場合でも,残業代だけなど,それ以外の事項を争う場合でも,基本的に,闘いが終わったら退職するつもりでいよう。
単純に金銭的な利害のことを考えれば,復職を争ったほうが有利な場合もあるし,お客さんや同僚に愛着があるかもしれない。

それでも,あなたは,ブラック企業にこれ以上所属するべきではない


その理由は,次のとおりだ。

 

  1. ブラック企業には,ブラック企業以外では働くことができない人材が集まっている。
    ブラック企業で好き好んで働いている人々には,(大変失礼ではあるが)基本的に,十分な残業代を払い,有給休暇も取れるような職場では採用されないことが原因で,そこで働いている人が多い。
    例えば筆者が以前争ったブラック企業では,私が在籍した短い間でも驚くほどの勢いで退職が相次ぎ,そのうち優秀なエンジニアや重役は,その会社の40倍も売上があるホワイトな一部上場企業に引き抜かれていった。腐りきったガバナンスに呆れ返り,わざわざ日本まで働きに来たにも拘わらず,出身国に帰っていった同僚もいた。

    一方で,ブラックな労務管理,すなわち犯罪行為に加担していた顔ぶれは,誰も聞いたことがない大学を出た無資格の財務担当役員や,社長と同郷で,他の社員をイジメ倒したことでも有名な総務担当など……市場では実力がないと見做されるだけでなく,経歴からして胡散臭く,その実ブラック企業に首までドップリつかり,倫理感まで怪しくなっている筋金入りの人たちであった。
    こういう人たちと一緒に何年間働いても,あなたや,家族にとってプラスになることは必ずしも多くない。

  2. ブラック企業で働くことは,従業員にとっても大きなレピュテーションリスクである。
    去年問題になった電通や,ブラック企業大賞となったワタミが好例であるように,ブラック企業(や,スルガ銀行やTATERUのような違法企業)としてメディアに大々的に取り上げられると,親戚や友人一同に心配されるし,社交的な場や転職活動の場で,印象が悪くなることはあっても,良くなることだけはない。

    それに,前回の記事で述べたように,ブラック企業は,金銭の獲得を目的として労働法違反行為を組織的に実行する,反社会的勢力に類似するものである。このような勢力とは,どのような形であっても関与しない方がいいことは,いうまでもない。
    筆者が以前争ったブラック企業は,一時期,グーグルで社名を検索すると1ページ目に,社長自らタイムカードの捏造を命じる会議の反訳がヒットしたり,「タイムカード 捏造」なんていう不名誉なキーワードで上位にランクインしたりた。
    反社会的勢力に類似する組織と「うまく」付き合って,自分だけは損をしないでやっていける,いつでも離脱できるなんていうのは,素人の甘えた発想である。違法行為を厭わない相手の出方ほど,素人に予想がつかないものはない。

    違法なものとは一切交際しないことが,身を守る唯一の方法である

  3. ブラック企業は,知性が敗北した結果として出現している。
    筆者も一応,会社を経営をしたことがあるが,ふつう,経営者は,法律を遵守しながら売上をつくり,事業を継続することに心を砕いている。

    ところがブラック企業は,違法行為を開き直り,ビジネスモデルの一環として,残業代の不払いや最賃割れなどを行っている。つまり,法令を遵守して会社を伸ばすという知的な努力を放棄しているのだ。
    例えば,一部上場のブラック企業・クリエイトエス・ディーでは,残業代が払われないので,定年まで働けば,マンションひとつ買えるぐらいにはタダ働きを強いられる。
    それなのに,クリエイトエス・ディーはライバル店の隣に出店して安値攻勢を仕掛け,会社は160億円もの営業利益を上げている。
    残業代が払えないのではなくて,商品同様に労働力も安く買いたたきたいから,労基署が忙しくて踏み込んでこないと決め込んで,意図的に労基法に違反しているのだ。
    このような会社で働いても,さまざまな創意工夫や,先端的なイノベーションに触れる機会は,まず訪れない。
    真摯な研究や経営努力ができる人材はとっくに他社に逃げているし,既に違法行為のうま味を知っているので,いざとなったら,あなたを含む社員やバイトを首にしたり,サービス残業をさせたり,その他,何らかの違法かつラクな手段で穴埋めをすればいいと思っているからだ。

 

 

(続く)