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天網恢恢疎而不漏

鳥商のおもひで(7)

団体交渉のはなしに,戻る*1

 

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(セットアップが完了した当時の商品)

鳥商社を立ち上げ,県人寮の狭い部屋を,深圳から仕入れたタブレットPCと,ロシアから仕入れたソフトウェアでいっぱいにしていた私は,京王線のとある駅にほど近い,スーパーの本社で開催された団体交渉に,自信満々で臨んでいた。

自信というのは,「仮にここで負けてクビにされても,オレは食っていける」という自信である。今にして思えば,若干わけがわからないが,当時は,そう思っていたのである。

 

あの頃の会計帳簿は残念なことに持っていないが,もともと,資本というのは,友人の岡本君から調達した5万円しかなかった。

このように,何をどう考えても綱渡りの財務状況なのに,私は変に自信満々で,無駄に費用をかけて作った名刺を懐に入れて,団体交渉にのぞんだ

 

団体交渉では,清水委員長が,解雇の理由は何だと,普通の調子で追求しはじめた。そうすると,例のエリアマネージャーが,店舗の人との協調性がどうのこうの,と説明をはじめた。

しかし,その実際の動機が,牡蠣フライ事件にほかならないことは,わかっている。言い逃れができると思ったのか。

清水委員長がそのカードを切る直前,私は間抜けにも,相手の会社や弁護に対して見栄を張る目的で,個人事業の名刺を配付してしまった。

ああ!バカにも程がある!!!

 

折角だから解説をすると,解雇無効の争いには,審判や判決の日以降,じっさいに働いて賃金を得る意味と,審判や判決が出るまでの間,働く意思があったのに,会社のせいで働けなかったに過ぎないのだから,その間の賃金を払えという意味(バックペイ)の,ふたつの側面がある。

自営業の名刺なんか配ってしまうと,前者の面でみれば,「別の仕事を始めたから,スーパーで働く意思を放棄した(=したがって,解雇が無効でも,どのみち働かなかったのだから,解雇されていた間の賃金は,払わなくてもよい)という主張や,「会社のせいで働けなかったとしても,別の場所で働いて利益を得たのであるから,その分をバックペイから控除せよ」という主張に悪用される。

このときは清水委員長も困惑したのか,団体交渉の最中なのに,私に,しきりに抗議を申し入れてきた。私の方では,まったく訳を知らないからぽかんとしているのだが,ついに見かねたスーパーの弁護士が,「組合内で協議する時間を設けましょうか」といって,席を外そうと申し出た。

清水委員長がそれを受け入れたので,スーパーの弁護士や取締役は,別室に去っていった。最近は,失業者らしく暇を持て余しているので,清水委員長の団体交渉を傍聴するようにしているのだが,こんな椿事は,起こったことがない。プレカリアートユニオン結成以来比類のない,相当の迷惑をかけたと言ってよいだろう。

 

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(当時は,旅行に行くのが好きだった。石巻に行ったときの写真)

 

団体交渉は,休憩を挟んだ後,相手の弁護士のペースで進んだ。今でも,あのときほど決まりの悪い団体交渉を見たことがない。あれ,おかしいな,午後から休んでいるはずなのに体力が段々ゼロに……

団体交渉終了後は,なんで名刺なのか出したのかと,駅前のロイヤルホストで散々怒られた。私は,ロイヤルホストなんてブルジョア的じゃないかとか,どうでもいいことを考えながら,そうでしたごめんなさいと平謝りをした。

しかし,「落とした牡蠣フライを客に提供した」という事実自体が,相当に強烈だったのだろう。これを宣伝されることを恐れた会社は,結局,解雇を撤回した。そもそも週3で早朝働いていただけなので,額は少なかったものの,バックペイも,もらうことができた。

これに若干の慰謝料を合わせて,2ヶ月分の生活費ぐらいになっただろうか。私は,口座に振り込まれた示談金を,すべて事業資金に充当することにした。

 

鳥商社,初めての増資であった。

 

 

*1:ここ1週間,比較的体調を崩していたので,更新することができなかった