Serve One Another

天網恢恢疎而不漏

鳥商のおもひで(5)

あっけないものであった。

私は,その場で制服などを没収され,スーパーを放り出された。

 

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(解雇の様子。黒塗り部分は,和解条項のためやむを得ず非開示)

 

人間同士の関係には,つねに,始まりと終わりがある。しかし,ほとんどの場合,始まりにも終わりにも,「話し合い」という過程が介在する。労働契約の場合,これは「採用面接」や「書類選考」にあたるだろう。

会社を辞める際にも,ふつうは,時期や条件,理由について,それなりに話し合った上で退職する。しかし,解雇というのは,これらの話し合いの一切をスキップして,一方的に,労働者を会社から追い出す行為である。

ここに,「解雇」という行為の特異性がある。

 

私は,スーパーを追い出された直後,動転して,自転車で出勤したのに徒歩で帰宅した。というのも,今後どうすべきか,必死で考えていたから,あれほど好きで高知から持ってきた自転車のことさえ,忘れてしまっていた。

 

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(高知から持ち出す際,まさに解体されようとする本件自転車)

 

私は,必死で記憶をたどり,プレカリアートユニオンという労働組合に電話をかけた。

 


この組合に知人がいたわけでも何でもないが,概して左寄りの国際基督教大学*1の効用か,かつて,引越社事件に関する宣伝が,Facebook上で流れてきたことがあったのである。

それで一度ウェブサイトを見たことがあり,そのときの印象が残っていた。

 

私は,家路を,急ぐこともないのに急ぎながら,プレカリアートユニオンに電話をかけた。清水直子委員長が電話に出た。この時,私の説明があまりにも要領を得ないので,結局何が問題なのかと,叱責された覚えがある。

その日か,またはその翌日,私は初台駅にあるプレカリアートユニオンに出向いて,清水直子委員長と面会した。

清水直子委員長は,大変さばさばとした人で,当時としては,コワい女の人だなあ,という*2印象を受けた。しかし,当時のやり取りにおいて,唯一覚えているのは,

労働組合は,サービスの提供を受ける場所ではありません。加盟や脱退はあくまでも自由ですが,労働組合を,安い弁護士だと思っていて,自分の件が片づいたら脱退してやろうと考えているのであれば,加入してもらわない方がいいかもしれない。

組合は,あくまでも,助け合いを行う場所です。そのことを理解して加盟してくれるのであれば,私や,組合の仲間は,助力を惜しみません。

 と,コワい顔で宣告されたことである。

私は,実をいうとコワかったので,つまり,この要求をはねのけて席を立つ勇気がなかったので,わかりましたと答え,組合に加盟した。

 

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(当時の労働契約書)

 

組合に加盟したところ,清水委員長は,その場で団体交渉申入書を作り始めた。これはプレカリアートユニオンの伝統のようで,今でも,加入と団体交渉申入書の作成は,セットとして扱われている*3

 

そして,この日から1ヶ月後,最初の団体交渉が開催された。解雇されたスーパーの本社前で,清水委員長と合流した。

しかし,この団体交渉に前後して,私は,鳥商日本株式会社を,正確には,その前身となる個人事業を,開業していた。屋号は,「穰商事」といった。

これは,祖父である前田穰からとったもので,親戚内では,顰蹙と賞讃を同時に集めた。私も前田穰も,賛否が鮮明に分かれる生き方をした人物であるからだ*4

 

私は,穰商事をすでに開業しているから,解雇なんかコワくないという,普通でない心構えを秘めて団体交渉に臨んだ。べつに隠していたわけではないが,清水委員長には,このことを知らせていなかった。

 

ようやく鳥商社が設立された。次回は,この団体交渉の様子と,穰商事の業容を中心に筆を進めていきたい。

*1:ちなみに,この解雇されたスーパーのすぐ近くに,先輩曰く「左翼のカフェ」と言われるナゾのカフェないしレストランがあった。経営者も従業員も全員左翼であって,国際基督教大学から毎年アルバイトを大量採用しているらしい。あれは何だったんだろう。一緒に行く人募集中

*2:あまりにも幼稚な

*3:従って,加入するときは,手続に3時間ぐらいかかると覚悟するべきである

*4:前田穰は,徳島県の人で,運良く衛生兵として徴兵して戦死を免れ,復員後高知県内で職を転々とし,ガソリンスタンドを開業したものの,部下に現金を持ち逃げされて倒産し,サラリーマン暮らしに戻ったひとである。その後,ボランティア活動として,県内山林部の放置林を伐採していたところ,心不全を起こして急死する。これでも,個人的には尊敬している。大人しいように見えて,破天荒な行動を起こすひとだった