Serve One Another

天網恢恢疎而不漏

「外国人材」を巡る二重の不幸(1)

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日本経済新聞30年12月23日版より

「ナゼ日本人ハ正月休ムノニ、私タチ休メナイ。」

 

レ・ミゼラブル』や『蟹工船』で描かれた工場労働者の風景を連想させる台詞だが、これが平成30年の日本だというのだから、驚きを隠せない。

安部政権は早々に改正入管法を成立させ、上限*1をむこう五年間で34万人とする外国人労働者の受入れを決めた。そのほとんどが、旧来から受け入れを進めてきた高度人材・専門人材の類いではなく、日本人が嫌いな「3K」の単純労働者である。

既に日本で働いている外国人留学生や技能研修生にも当てはまることだが、単純労働分野への外国人の受入れは、二重の意味で不幸といえる。ひとつの不幸は、外国人による労働供給の増加によって、既に入国した外国人や日本人の賃金水準が低下し、または上昇の余地が小さくなることだ。もう一つの不幸は、入国した外国人ら自身が、日本国や地域社会、そして企業の「仲間」ではなく、あくまでも「労働力」に付随する人格、つまり自動車の部品としてのハンドルのように扱われ、また、キャリア形成の重要な時期である20代のうちに、高度なスキルを身につける機会を奪われてしまうことだ。

 

外国人労働者が増加すれば自国民の賃金が下がるかどうかについては、ブレグジット周辺の事柄を中心に、議論が絶えない問題ではある。下がらないと主張する受け入れ推進派の論拠のひとつに、外国人労働者も、内国の労働者と同様の消費者の一人であるのだから、受入れは自国民の増加と同様の効果をもたらす、というものがある。

しかし、今日本で進められているのは、あくまでも短期・中期的な労働者の受入れであり、移民政策ではない。短中期的な労働者は日本に定住しないので、定住を前提とした支出をしない。具体的には、住宅や自動車を取得しないことが多いし、教育・文化関係の消費もゼロに近いだろう。そのようにして蓄えた貯蓄は、もっぱら本国への仕送りに充てることが多いという。

だとすれば、もし同額の労賃が、内国の労働者への賃上げや新規雇用として支払われていた場合と比較して、国内で商品やサービスの購入に充てられる金額が小さくなることは否めない。

また、国内労働者同士の関係においても、労働供給の増加が賃金を押し下げることがわかっている。

 

 旺盛な求人需要を賄い、賃金上昇を抑える要因となったのが女性の就業増加だ。「男性正社員の収入減などを背景に女性の就業が進み、人材供給が増えた」(東京大学川口大司教授)。

総務省によればパート・バイトは30年で656万人から1491万人に増えた。約8割が女性だ。 時給の上昇率が再び広がったのは14年ごろから。

景況感が上向き、最低賃金が上昇した影響が大きい。それでも17年の前年比上昇率は2%程度とバブル期より格段に低い。

女性や若者の潜在労働力が減る中で人手不足が深刻化。「多少上げても採れない」と考える企業が増えたためだ。

 

アベノミクスによって女性と高齢者の労働者が100万人も増加し、その半面で、男性労働者の「非正規化」が進んだことは広く知られているが、 その非正規の境遇をさらに苦しいものにしているのが、労働供給の増加、すなわち労働者同士の競争なのである。

日経新聞は、しばしば、非正規の賃金の伸び率が正規のそれよりも高いことを批判的に取り上げるが、むしろ、自然かつ本来的なことといわなければならない。非正規というのは、労働力を柔軟に切り分けて売却している主体であって、しかも、契約期間に期限が定められている。

 

どんな商品でも、大口で買うよりは小口で買った方が単価が高くなるし、毎月決まった量を買うよりも、買い手の都合に合わせて量を変えられる契約の方が割高になる。長期間にわたって更新しない契約よりも、短期で解約される可能性がある契約の方が、売り手は警戒するし、解約された場合のつなぎの資金を蓄えておく必要があるから、やはり単価は高くならざるをえない。

これら全ての根本的な理由は、いずれも、売り手の側の管理費やリスクが上昇するから、その分を商品の価格に反映するという事にすぎないのだが、非正規の方が正規よりも安いという現象は、以上のすべての原則が覆された結果としての、異常現象に他ならない。

そして、このような、異常に不利な取引を吞まざるをえない、無権利状態に近い場所に置かれている労働者が、相応の数存在するということでもある。

 

話が本筋からそれたが、労働供給の増加は、国内のそれであっても相応に、短中期な外国人労働者であればそれ以上に、労働者全体の賃金水準を押し下げる効果を持つはずだ。

そして、そのシワ寄せは、賃金を含む労働条件の変更が容易な非正規労働者の側に集中することになるだろう。高所得者の所得は、減少しても貯蓄や投資に充てられる分が減るだけで、消費水準には大きく影響しないことが多いが、低所得者の所得を減少させると、そもそも所得の大部分を消費に充てているので、所得が減少した分とほとんど同じだけ、消費が減少する。

労働者の生活に配慮するならば、34万人もの新規の労働者を受け入れる余地はないはずだ。ところが、今回の新しい在留資格では、派遣労働者としての就労も認められるという。

 

(次回の記事で、第二の不幸について説明します)

*1:「下限」とほぼ同義であろうが

ブラック企業に関する基本的な考え方(2)

# ブラック企業に関する基本的な考え方(2)

 

(前回の記事)


和戦いずれか

ブラック企業の被害を受けたことに気がついたら,ひとまず,この被害を回復するために立ち向かうか,あるいはこれ以上被害を受けないために離職するかの,いずれかを決めなければならない。
この時大事なのは,常に最悪のケースを想定して考える,ということだ。労働法違反が明らかなケースであればあるほど,大部分のブラック企業は,組合から団体交渉を申し込まれるや否や和解を申し出ることがあるし,労基署が入れば,すぐに決着することも多い。
前回,ブラック企業の3本質で確認したように,ブラック企業は,物事を,誠実な話し合いではなく,力関係や金銭で解決するものだと,いわば獣的に考えている。だから,力のある組合や国家権力に勝てるはずがないと見るや,たちどころに金銭を提供するのだ。


しかし,個別の労働紛争が正当に解決した場合でも,ブラック企業が何らかの報復を仕掛けてくることは多い。たとえば,残業代は支払ってきたものの,その直後から上司による執拗なパワーハラスメントが始まり,社内のチャットも監視され,ちょっとでも問題になりそうなことをいうと,降格などの懲戒処分が降ってくる,といった具合だ。
だから,ブラック企業が現状敷いている秩序ーブラック企業の支配者のゆがんだ常識が,日本の法規範に優越する異常な秩序ーに反抗するということは,どんなに小さな事であっても,個別問題に関する紛争に留まらず,長期的な総力戦を招くものであると覚悟しよう。

 

まずは,以下の点をチェックしたい。

 

  1. 生活が持続的であるかどうか
    ブラック企業は,ときに,労働者の生活が困窮して戦意をなくすことを企図して,スラップ訴訟を起こしたり,無理筋でも解雇を仕掛けてくることがある。このとき,預貯金があるかどうか,生計費のうち固定費が多いか少ないか,妻子を預けるなど頼りにできる親戚が居るかどうかは,決定的に重要である。


  2. 自らに瑕疵がないかどうか
    これは業界全体でいわれていることだが,使用者側の弁護士は,労働者側のそれより,証拠が豊富であるから簡単だとされている。
    会社の入退室記録から電子メールまで,使用者は,さまざまな情報を把握している。
    だから,例えば営業に行ったのにパチンコでサボっていたとか,女子社員にセクハラのメールを送信したことがあるといった覚えがある場合は,判例上,時効によって懲戒権が消滅するとされている,最後にそれらの行為をしたときから5年間程度が経過するまでは,会社とたたかうことはできないと考えよう。

  3. 社会的に孤立していないかどうか
    ブラック企業との対決が始まると,会社関係の人間関係は,一時に寸断されることになる。このとき,家族や趣味の仲間との十分親密関係があるかどうかが,非常に重要な意味を持ってくる。人は,衣食住が足りていても,孤独の中では生きていけないからだ。

 

 

これらの点が概ねオーケーであれば,ひとまず,ブラック企業と対決する足場はあるといるというべきである。

 

ゴールを決める

会社に立ち向かうことが可能な状況にあって,その決心がついたら,まずはゴールを決めよう。

ゴールは,原則として「退職和解」であるべき

ここで一言。解雇を争う場合でも,残業代だけなど,それ以外の事項を争う場合でも,基本的に,闘いが終わったら退職するつもりでいよう。
単純に金銭的な利害のことを考えれば,復職を争ったほうが有利な場合もあるし,お客さんや同僚に愛着があるかもしれない。

それでも,あなたは,ブラック企業にこれ以上所属するべきではない


その理由は,次のとおりだ。

 

  1. ブラック企業には,ブラック企業以外では働くことができない人材が集まっている。
    ブラック企業で好き好んで働いている人々には,(大変失礼ではあるが)基本的に,十分な残業代を払い,有給休暇も取れるような職場では採用されないことが原因で,そこで働いている人が多い。
    例えば筆者が以前争ったブラック企業では,私が在籍した短い間でも驚くほどの勢いで退職が相次ぎ,そのうち優秀なエンジニアや重役は,その会社の40倍も売上があるホワイトな一部上場企業に引き抜かれていった。腐りきったガバナンスに呆れ返り,わざわざ日本まで働きに来たにも拘わらず,出身国に帰っていった同僚もいた。

    一方で,ブラックな労務管理,すなわち犯罪行為に加担していた顔ぶれは,誰も聞いたことがない大学を出た無資格の財務担当役員や,社長と同郷で,他の社員をイジメ倒したことでも有名な総務担当など……市場では実力がないと見做されるだけでなく,経歴からして胡散臭く,その実ブラック企業に首までドップリつかり,倫理感まで怪しくなっている筋金入りの人たちであった。
    こういう人たちと一緒に何年間働いても,あなたや,家族にとってプラスになることは必ずしも多くない。

  2. ブラック企業で働くことは,従業員にとっても大きなレピュテーションリスクである。
    去年問題になった電通や,ブラック企業大賞となったワタミが好例であるように,ブラック企業(や,スルガ銀行やTATERUのような違法企業)としてメディアに大々的に取り上げられると,親戚や友人一同に心配されるし,社交的な場や転職活動の場で,印象が悪くなることはあっても,良くなることだけはない。

    それに,前回の記事で述べたように,ブラック企業は,金銭の獲得を目的として労働法違反行為を組織的に実行する,反社会的勢力に類似するものである。このような勢力とは,どのような形であっても関与しない方がいいことは,いうまでもない。
    筆者が以前争ったブラック企業は,一時期,グーグルで社名を検索すると1ページ目に,社長自らタイムカードの捏造を命じる会議の反訳がヒットしたり,「タイムカード 捏造」なんていう不名誉なキーワードで上位にランクインしたりた。
    反社会的勢力に類似する組織と「うまく」付き合って,自分だけは損をしないでやっていける,いつでも離脱できるなんていうのは,素人の甘えた発想である。違法行為を厭わない相手の出方ほど,素人に予想がつかないものはない。

    違法なものとは一切交際しないことが,身を守る唯一の方法である

  3. ブラック企業は,知性が敗北した結果として出現している。
    筆者も一応,会社を経営をしたことがあるが,ふつう,経営者は,法律を遵守しながら売上をつくり,事業を継続することに心を砕いている。

    ところがブラック企業は,違法行為を開き直り,ビジネスモデルの一環として,残業代の不払いや最賃割れなどを行っている。つまり,法令を遵守して会社を伸ばすという知的な努力を放棄しているのだ。
    例えば,一部上場のブラック企業・クリエイトエス・ディーでは,残業代が払われないので,定年まで働けば,マンションひとつ買えるぐらいにはタダ働きを強いられる。
    それなのに,クリエイトエス・ディーはライバル店の隣に出店して安値攻勢を仕掛け,会社は160億円もの営業利益を上げている。
    残業代が払えないのではなくて,商品同様に労働力も安く買いたたきたいから,労基署が忙しくて踏み込んでこないと決め込んで,意図的に労基法に違反しているのだ。
    このような会社で働いても,さまざまな創意工夫や,先端的なイノベーションに触れる機会は,まず訪れない。
    真摯な研究や経営努力ができる人材はとっくに他社に逃げているし,既に違法行為のうま味を知っているので,いざとなったら,あなたを含む社員やバイトを首にしたり,サービス残業をさせたり,その他,何らかの違法かつラクな手段で穴埋めをすればいいと思っているからだ。

 

 

(続く)

ブラック企業に関する基本的な考え方(1)

ブラック企業に関する基本的な考え方

 

はじめに

 

ーーしまった。うちの会社は,ブラック企業

こう感じたとき,まずは,どう動くべきだろうか。

気付くのは早ければ早いほどよいが,実際には会社に洗脳されていて,これが遅くなってしまうことも多い。

諦めて辞めるというのは極めて容易だが*1,残業代を諦めるのが惜しい場合もあるだろうし,感情的に許せないということもあるだろう。

そうした場合,たたかう場合と,あきらめる場合の費用と効果を総合的に検討し,自分自身の状況も踏まえ,もっとも合理的な手段を選ぶ必要がある。

 

本稿では,筆者の経験を踏まえて,ブラック企業に対する基本的な考え方と,たたかう場合に気をつけるべきことを,手短に共有したいと思っている。

 

ブラック企業とは何か

 

ここでは,ブラック企業とは,少なくとも,以下の要件を備えているものをいう。

 

  • 労働法を中心とする,法令違反の客観的事実があること
  • 理性的な話し合いができないこと

 

 

そもそも近代的な社会とは,その構成員が,法令を遵守して自由に行動することを前提としている。更にいえば,法令を遵守する限り,各人の行動は自由である。

だから,単に事業内容が気にくわないから(例えば転売屋であるとか,光回線の営業会社であるとか)とか,社長の容貌が胡散臭いからといって,または営業方針が過酷であるからというだけで,ある企業を「ブラック企業」と非難することは,正当ではない。

このような方法が正当とされる社会では,我々自身が,例えば趣味がオタク的であるからとか,ファッションセンスがないからといった理由で「人間失格」「キモオタ」といった言葉で公然と非難されることが,正当化されてしまうだろう。企業の労務政策が法令違反に当たるかどうかの考え方とケーススタディーは,後ほど紹介する。

これに加えて,「理性的な話し合いができないこと」を要件としたい。というのも,労働法を網羅的に遵守することは,我々が思っているよりも難しいことであるからだ。六法全書を丸暗記したとしても,なお難しい。

とくに労働法の分野では,法規範が判例に依拠していたり*2,喧々囂々の議論が交わされる事例があったり*3するうえ,労働者の状況はつねに個別具体的であるので,法規や判例の当てはめが,必ずしも容易ではない。

したがって,仮に,会社の労務政策に法令違反を見つけても,性急に悪意だ搾取だと決めつけて対決姿勢をとるのではなく,まずは穏健な方法で,なるべくなら労働組合を通して,話し合いを申し入れることが望ましい。

我々の側が穏健に話し合いを申し出ているのに,不当な処分や報復が待っていたり,カネのためなら何でもする種類の恵まれない弁護士を持ち出して恫喝や引き延ばしを図る場合は,残念ながら,ブラック企業と関わり合いを持ってしまったと判断するべきだ。

 

ブラック企業の本質

 

君は,ブラック企業と関わり合いになってしまった。人生においてこれほど不運なことはないが,まずは冷静になって,「敵」の本質を見極めてみよう。

ほとんど全てのブラック企業は,次のような本質を持っている。

 

  1. ブラック企業は,金銭の獲得を目的としている
  2. ブラック企業は,ペナルティーがメリットよりも小さければ,法令に違反したり,信義則に違背しても構わないと考えている。
  3. ブラック企業は,誠実な話し合いではなく,権力や経済力によって,問題を解決したいと考えている
  4. ブラック企業は,アメとムチによって従業員の不満を抑制しているので,「メンツ」を徹底的に重視する

 

ちなみに,(3)に「暴力」を加えると,暴力団の定義とほとんど変わらなくなってしまう。じっさい,暴力を繰り出してくるブラック企業も決して珍しくない。だからこそ,たちが悪い。

在職でブラック企業と対峙する場合,物理的な暴力がなくとも,精神的な暴力ーーすなわちパワーハラスメントや退職強要は,ほぼ間違いなく繰り出される。筆者自身,とあるブラック企業から物理的な暴力も精神的な暴力も受けて,病院通いを余儀なくされたことがある。

つまり,我々が対峙する敵は,ほとんど「反社会的勢力」とイコールの存在なのだ。ここから,次の原則が導き出せる。

 

  1. ブラック企業を恐れ,不当な要求に屈してはならない
    足下を見られ,さらなる不当な要求が繰り出される。

  2. ブラック企業に対し,孤立して立ち向かってはならない
    ブラック企業は,ブラックな弁護士や産業医労務コンサルタントなどと結託して向かってくる。到底,ひとりの労働者が太刀打ちできる相手ではない。

  3. ブラック企業は,違法行為に熟練している
    我々とっては最初の対決でも,ブラック企業の関係者は,すでに多くの対決を経験し,幾人もの良識ある労働者を力で屈服させ,なお逮捕・投獄に至らないまま,今日に至っている*4

  4. ブラック企業とのやり取りは,全部を記録に残さなければならない
    さもないと,揚げ足をとられたり,前言を翻されたりして,消耗戦に持ち込まれる。

  5. ブラック企業に関する情報は,すべてが重要である
    不誠実な相手の行動は,客観的な状況によってしか予測できない。

  6. ブラック企業に対しても,違法な方法で反撃をしてはならない
    自覚的な犯罪者にとって,法と正義に敗れることは,ある程度織り込み済みである*5。しかし,べつの犯罪者に敗れることは,絶対に受忍できない屈辱である。

  7. 社会の大多数を占める良心的な市民は,いずれも,あなたの味方である。
    正々堂々と立ち向かえば,道は開ける。

 

(つづく)

serve1another.net

 

*1:場合によっては辞めさせてくれない事もあるが

*2:整理解雇の3要件など

*3:最近ではハマキョウレックス事件など

*4:例外的ではあるが,じつは元受刑者が関与しているような,漆黒のブラック企業も存在する

*5:君に示談金を払う羽目になったとしても,同額以上のカネを他の従業員から搾取できるなら,それでいいと考えている

日本企業と若年労働者の未来について考えてみた

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・今後の労務政策においては,時代情勢の変化によって社員の労働生産性が大きく変化することを前提として,年金型の前借り・先払いといった,高度の安定性を前提としたシステムを最初から作らないことが大事

鳥商のおもひで(8)

鳥商社の事業は,その後も,極めて順調であった。

 

さて,示談金を受け取った後も,細かく多く続けていた各種のアルバイトを,辞めてはいなかった。しかし,ある人との出会いをきっかけに,一挙に辞めることになってしまう。

 

その人が,岡本君である。岡本君というのは,都内の某有名大学に通っていた理系の大学生なのだが,彼と出会った経緯は,じつに面白いものであった。

当時,特にヒマな,または資金需要があるときの臨時のアルバイトとして,警備員の仕事を,グリーン警備という会社でやったことがある。

このときの体験談も面白いのだが,それはさておき,警備員は,業法上,わりと長時間の研修を受けなければならないことになっている。

長時間の研修といっても,警棒の使い方といった最低限のものを除いては,部屋の中に座ってビデオを見ているだけという形式的なものにすぎない。

このビデオを見ながら,筆者はあまりにもバカらしいと思ったので,英語版Wikipediaの記事をプリントして持参し,日本語版に投稿するべく,素人ながら翻訳を行っていた。

 

そうすると,休憩中に,彼のほうから話しかけてきたのである。

なんでも,こんな場所で同年代の男を見つけるとは思っていなかったので,びっくりし,なおかつ,面白そうであるから,話しかけたとのことであった。

さっそくその日の夜,西新宿の磯丸水産で酒を酌み交わすことにした。

 

http://livedoor.blogimg.jp/next_step_to/imgs/d/d/dddf04b9.jpg

▲本件磯丸水産*1

 

かれ曰く,かれはSymphonyを利用したiPhoneアプリの開発ができる,そこで,ある人と組んで旅行関係のアプリを立ち上げようとしている,話が合うだろうから,今度会ってみて欲しい,ということであった。

この人とは後日会うことになるのだが,閑話休題,それ以降,久しぶりにベンチャー的なことを思い出して,肉体労働をするのがバカらしくなってきたのである。

 

そして,ある日。

岡本君から「これから飲まないか」と急に誘われたときのことだった。

しかし,あと30分でアルバイトの期日がある。

ところが,この日,私はたまりかねて,店長に電話をすると,

 

「ああもしもし」

「すみません,前田ですけど」

「はい」

「ごめんなさい,バイトォ,つまらなさすぎるので,やめまああああああす!!!」

「えっ ちょ」

(ガチャ) 

 

……というとんでもない方法で,バイトを辞めてしまったのである。

他のバイトも,順次(普通の方法で)辞めることにした。

 

これはこれで非常識なのだが,この行動にはいちおう背景がある。

 

以前,有給のインターンシップをしていた某社で,人事の人が,これまた日本人らしい人で,

アルバイトを解雇したいのに,解雇をするという電話をするのが気まずいという理由で,社長にも報告しないまま,ひたすら電話をすることから逃げ回り

結局,解雇した(と上層部は認識していた)アルバイトが出勤してきてしまい,社長が収拾にあたる,という光景を目撃したことがあった。

双方にとって,これほど無益な話はない。

授業の開始時間と終了時間が等しく守られるべきであるのと同様に,雇用契約にせよ,他のどんな関係にせよ,始まりも終わりも明示的に,というのが,

この日以降,筆者のポリシーとなったのである。

(ただし,社会は未だに黙示主義で動いている人が多いようだ。このポリシーが原因で,*******時代,周囲の無責任のために,相当に苦しめられることになる)

 

しかし,寒い日も暑い日も,40インチのタイヤを履いたバカみたいなクロスバイク*2で,三鷹から花小金井まで,あちこちで働いていたのをやめたことで,時間的にもずいぶん楽になった。

 

職業や習慣というのは,面白いもので,一度サイクルを作ってしまうとそれに違和感を覚えることは少なくなり,近くでこれを指摘してくれる第三者がいないと,深みにはまっているときは,どこまでも深みに落ちてしまう。

 

アルバイト掛け持ちによる過重労働が,どうもこの頃の酒浸りの原因であったようだ。筆者は次第に健康を取り戻し,事業に邁進するようになってゆく。

 

 

*1:引用元:磯丸水産@新宿 : ラーメン食べたら書くブログ

*2:高知から持ってきたAnchor UC9を改造したものである

なぜ犯罪が起きるのか

なぜ犯罪が起きるのか。先日,非常にシンプルな答を思いついた。

 

確実に,

自身の生産力を超過した利得を得られるからである。

 

ひとは,(ルミネエストで買い物をするために?)限られた時間でより多くの利得を得ようと,必死に励むものであるが,普通の方法を使う限りは,おのずと限界に突き当たる

そこで,不動産投資などの,自身の生産力と関係がなく資産が増加する投資スキーム的なものが流行するのであるが,こちらは,生産活動と異なり,リスクが高い。経営だってそうだ。事業は常に失敗の可能性があるし,環境が変化して,経営者の実力と関係なく,事業が立ちゆかなくなることも多い。

ところが,犯罪行為はこの点,リスクが低い。

 

国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)

国富論 国の豊かさの本質と原因についての研究(上)

 

▲国民の富の総量は,国民のうち,生産的な労働に従事する人の比率によって決まる。ある年に国民の生活に充てることができる財貨の量は,その年に生産された生産物の総量から,固定資産の維持や生産に充てられる量と,非生産的な労働の維持に充てられる量,および通貨制度の維持に充てられる量を引いた量に,過去に生産されたものが,備蓄または固定資産の形で保存されているところから,必要に応じて取り出して消費した財貨の量を加えたものである……要するに,FX取引みたいに急激には増えないのである

 

より正確には,リスクを管理することができる。すなわち,発覚のリスクが高いときは犯行に及ばなければよいし,リスクが低いとき,得られる利得に比してコストパフォーマンスがよいときは,犯行に及べばよい

この点,残業代不払いなどは,優良案件なのである。前職*******の提携先であった(スポーツITソリューションという会社を合弁で作っている),あの電通さえ,誰ひとり逮捕されずに,会社が罰金50万円を支払って終わりである。東大卒のエリートひとり潰して,50万円どころじゃない長時間をタダ働きさせて,巨額の配当と役員報酬を手に入れ,バレた場合に限って50万円であれば,これほど素晴らしいビジネスはない。

もちろん,中には,利得が低く発覚の恐れが高い犯罪に手を出すことを避けようとしない人もいるが,これは,カボチャの馬車への投資を避けようとしない人がいるのと同じことである。

 

いわゆるギャンブラーというのは,リスクを厭わない人たちである。起業家の一部もそうだ。ところが,犯罪者というのは,貪欲でありながら,臆病であり,しかも公共性を破壊することや,他人を陥れることを厭わない人々であるということができる。ブラック企業と団体交渉をしたときに,当の社長が,何度呼びかけても,どんなに必要でも,隠れ回って出て来ないというケースを,想起せざるを得ない。

しかし,こんな卑劣な人々が,市場社会には,はびこっている。先日も,ソフトバンク10兆円ファンドのパートナーであるサウジアラビアの皇太子が,実は殺人事件に関与していたということが,被害者が最後に仕掛けたワナのために明るみに出た。桁違いのカネがあるところ,常に,暴力や詐欺,不正がある。

 

結局,犯罪の世界,ヤミの世界に足を踏み入れるか否かは,足るを知るか否かであるように思える。べつに仙人の生活をしろと言っているのではなく,自らの感覚によって知覚できる限度を富の目標とするならば,最悪でも,与沢翼みたいにひどいデブになるだけで済む。 

しかし,他人と比較し,自慢して見せびらかすための富を目的としてしまうと,登り詰めれば登り詰めるほど,犯罪の世界に近づいていく。例の孫正義と張り合おうものなら,殺人以上の何かをしなければならないかも知れない。

犯罪者を許さないこと,良識ある国民の連帯によってこれを排除すること,関わらないようにすること,いずれも大切だが,何よりも,虚栄心に囚われないようにすることに努めたい。

 

人生を快適なものにするすべてのもの――それを運命はゆたかに彼に与えたが――を誇ることもなく、同時に弁解がましくもなく利用し、そういうものがある時にはなんら技巧を弄することもなくたのしみ、無い時には、別に欲しいとも思わなかったこと

 

 

 (紙原稿から書き起こし)

*******と*****社長から学んだ,ちょっとしたこと

今日は,珍しく,筆者の前職である*******と*****社長から学んだことをひとつ,書き出してみたい。ちなみに,以下のこと以外にも,非常に研究熱心であることは大きな美点だと思うが,これは論証を俟たないことなので,ここでは言及しない。

 

自慢もエネルギーのもと

**社長の著書はお読みだろうか。基本的に,自慢話の連続である。官報を見る限り,毎年平均して3000万円の赤字を出していて,うなるほどあった資本金も激減しているので,数字だけを見ると,優秀な経営者という評価は困難だと思う(この辺の立ち入った話やリンク先は,和解協議の意向があるからということで,今現在公開している以上の情報は一切追加できない)。

しかし,昔話したときのことを振り返っても,ブログを見ても,何というかウキウキ感満載で,ヘリとか自転車とか楽天の社長とかワインとか何十周年とか……自慢話が引きも切らない。

つい最近までは,このように数字不相応の自慢ばかりしている事から明らかなように,彼は幼稚で,自らの非行を棚に上げてプライドだけを守ろうとしたので,無用に紛争の拡大を招き,株主始め多くの人に迷惑をかけるのだと批判的に考えていたが,あまりの退屈さに負けてスピノザの『エチカ』を手に取ったところ,こんなことが書いてあった。

 

第4部定理53

謙遜(劣等感)は徳ではない。すなわち,理性からは生じない。

証明

謙遜は人間が自己の無能力を観想することから生じる悲しみである。しかし,人間が自己自身を真の理性によって認識する限り,かれは自己の本質を,言い換えれば,自己の能力を認識するものと思われる(第3部定理7による)。だからもし人間が自己自身の観想するにあたり,自己のある無能力を知覚するとしたら,それは彼が自己を真に認識することから来るのではなくて,むしろ彼の活動能力が阻害されることから来るのである……(以下略) 

 

第3部定理7

各々の物が,自己の有に固執しようと努める努力は,その物の現実的本質にほかならない。

証明

各々の物の与えられた本質から,必然的に色々なことが生ずる。また物は,その定まった本性(ほんせい)から必然的に生ずること以外のいかなることをも為しえない。ゆえに,各々の物が,単独であるいは他の物とともにある事をなし,あるいはなそうと努める能力ないし努力,言いかえれば,各々の物が自己の有に固執しようと努める能力ないし努力は,その物の与えられた本質,すなわち現実的本質にほかならない。

 

要するに,今君ができる事こそが君の本質じゃん?それが理性的にわかっていれば,今君ができる事について考えるし,実際できる事をやるじゃん?それなのに,劣等感を抱いてネガティブになって,あれもこれもできないって悩むのは理性的じゃないぜという事だ*1が,筆者には,けっこう思い当たる節がある。

 

鳥商社を設立して以降,母からは,一度だけ「会社を作ってから天狗になった」と叱られたことがあるが,筆者は,基本的には,会社を作ったことも,売却したことも,tOriPayのことも,何もかも,聞かれなければ,必要以外の人には言わなかった。一見すると秘密主義のようだが,ウソをつくのはいやなので,聞かれたら最低限のことは答えていたから,秘密主義というつもりではなかった。

ちなみに,多摩信用金庫の担当者や,*******の同僚から,皮肉*2で「社長!」みたいに言われるのは,相当にしんどかった。立場上そういう事になっているというだけで,筆者自身が,その辺の荷担ぎ労働者と比べて本質的に何か違うものではないということは,筆者自身が一番よく分かっていたからである。

 

こんな僕でも社長になれた

こんな僕でも社長になれた

 

 ▲ふつう,「社長」になるのは,嬉しいことらしい。筆者の場合,アイデンティティの置き場所が分からなくなって,精神的に不安定になった。

 

要するに,良くも悪くも自信がないので,恥をかく可能性が少しでもある以上は,なるべく表に出たくなかったのである。実際,筆者のSNSの使い方の下手さは,知人全員がひとり残らず知っている。

しかし,失業者らしく膨大な空き時間を手に入れてみたところ,今度は,この時間の使途に困るようになった。何か始めてみようと思ったはいいものの,今ひとつ情熱的になれない。生活がかかっている,義務である,などの理由があれば動けるのに……と歯がみした。

この原因は,もしかすると,自分の挙げた成果を人に見せず,黙っておく習慣にあるのではないか,と,**社長について考えた結果,ひらめいた。周囲を見渡せば,インスタは大流行しているし,ZOZOの社長はTwitterで宇宙旅行を自慢しているし,友人もみな,大きな名誉と金銭を手に入れるべく,その進捗をちょくちょく自慢しながら,がんばっている。

一方,筆者の態度は,**社長いわく,

 

「君さ,マルクス主義経済の学者みたいな話し方をするよね。ぼくの親が学者だから,周りに沢山いた。よく知ってるよ。本当に話し方,考え方が似てる」

 

というわけである*3。少なくとも,宇宙旅行と相容れないのは間違いない。「オレのことは今日から,MZと呼んでくれ!」なんて,一生言えないだろうなあ。成功を自慢する意味での自伝なんか,間違っても出版しないだろう。ちなみに**社長の自伝は,中国語版まで存在する。鳥商社関係の失敗談は,面白いからそのうちKindleで出版するかもしれない。

 

(和解のため画像を削除しました)

 ▲中国語版『*******』。「收入」だと「年収」か「営業利益」に取られかねない気がするのだがいいのだろうか(売上高が五億と言いたいのだと思う)。

 

先日,用事があってルミネエストの8階飲食店街に(22年生きて初めて)足を踏み入れたが,他人に見せびらかす以外に効能がない服を着た若者がひしめき合っていて,ものの30秒で体調が悪くなった。既に混雑していて,しかも,内容物の割に価格が高い飲食店のために並ぶ人々の気持ちが,やはり一切分からず,改めて,もう都心には住めないと観念させられた。それでも,このルミネエスト的な空間こそが,同年代の多数のみならず,**社長はじめ,人々が生きている舞台なのである。

 

筆者はもう,ヤミの資本も暴力事件も懲り懲りであるが,あちらの世界から,人に自慢するという目標を持てば,何かにのめり込むことができるということは,学んでもよいかなと思った。

狭小住宅問題も解決して電子ピアノも広げたことだし,このブログで大々的に自慢することを目的に何か頑張ってみようか。

 

(手書き原稿から書き起こし)

*1:と思う

*2:信金の担当者は多分皮肉ではないのだが,筆者は「こんな民生用の安アパートで「社長」なないだろう……と死にそうな思いだった

*3:どうせ関係者が見ているので念のため書き加えておくが,この発言自体は相当に妥当なので,思い出話として紹介しているまでであって,批判等の趣旨ではない